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日本が世界に誇る大数学者 岡潔

数学者岡潔について,ご存知の方は意外と少ないのではないでしょうか?
昭和初期はまだまだ発展途上であった多変数解析関数の分野で世界的な業績をあげた方で,同分野においての三大問題をすべて解決しました。たった1人の偉業に世界中の数学者が驚嘆したそうです。岡潔は1960年に日本で文化勲章も受章しています。
岡潔は教育にも精通しており,ノーベル賞受賞者の湯川秀樹や朝永振一郎も岡潔の講義を受けたそうです。
 
Oka
ボアンカレ予想などと同様で,数学の偉業については,我々に全く馴染みのないものではないでしょうか。。。
しかし,岡潔はとてもシンプルで分かりやすい名言を多数残しており,多くの人の心も掴んでいます。と同時に,数学者独特の奇行でも有名です。お茶の間的には,言葉が悪いが「変人としての岡潔」で有名なのではないでしょうか。
 
もはや変人の域!天才数学者【岡潔】天才ゆえの奇行と思考とは。
 

岡潔の名作中の名作!もはや数学教育のバイブルです!

今回ご紹介させていただく岡潔の「春宵十話(しゅうしょうじゅわ)」は1963年に出版されたもので,毎日新聞の岡潔のコラム・エッセイを集めたものです。
 
言わずと知れた名著で,教育に精通した岡潔が当時の教育にズバズバと斬りこむように持論を展開します。大数学者の岡潔の言葉がどれを取っても重みと深みがあり,日本人にとって,人生を生きる上のバイブルやフィロソフィになり得るものだと思います。半世紀前の著書ですが,良い意味で古く,だからと言って現代でもまったく古びれておりません。
 
読書して印象的だったところをいくつか載せておきます。

日本だけのことではなく,西洋もそうだが,学問にしろ教育にしろ「人」を抜きにして考えているような気がする。実際は人が学問をし,人が教育をしたりされたりするのだから,人を生理学的にみればどんなものか,これがいろいろの学問の中心になるべきではないだろうか。

教育に問わず何に対してもいえますね。現代社会では当時よりも尚更あてはまるような気もします。
 

人は動物だが,単なる動物ではなく,渋柿の台木に甘柿の芽をついだようなもの,つまり動物性の台木に人間性の芽をつぎ木したものといえる。それを芽なら何でもよい,早く育ちさえすればよいと思って育てているのがいまの教育ではあるまいか。ただ,育てるだけなら渋柿の芽になってしまって甘柿の芽の発育はおさえられてしまう。渋柿の芽は甘柿の芽よりずっと早く成育するから,成熟が早くなるということに対してもっと警戒せねばいけない。すべての成熟は早すぎるよりも遅すぎる方がよい。これが教育といううものの根本原則だと思う。

戦後,義務教育の学習内容が大幅に拡充しますが,いたづらに早く学習すればいいわけでは無いとお話されています。
もし,岡潔が中学受験塾のカリキュラムをご覧になられたら,とんでもないことになる気が。。。世界の数学者は,端的にいうと「たくさん学習するよりも,深くじっくり考えるべき」だとお話されています。
 

情緒の中心の調和がそこなわれると人の心は腐敗する。社会も文化もあっという間にとめどもなく悪くなってしまう。そう考えれば、四季の変化の豊かだったこの日本で,もう春にチョウが舞わなくなり,夏にホタルが飛ばなくなったことがどんなにたいへんなことかがわかるはずだ。これは農薬のせいに違いないが,農薬をどんどんまいてはしごをかけて登らなければならないような大きなキャベツを作っても,いったい何になるのだろう。

この本では,教育に必要なのは,知識ではなく情緒であると何度もくり返し登場します。詳しくはぜひ読んでみて下さい。
 

さしあたって教育をどう攻めていくかであるが,経験から学ぶのが科学であるからには,暗中模索するよりは,戦前に戻してそこから軍国主義を抜けばよいと思う。だいぶ以前だが,ある小学校の先生から「算術はこれまで演繹的に教えていたのを,近ごろ帰納的に教えなければいけないといわれているのが本当でしょうか」とたずねられた。とんでもないことで,私たちの世代は算術を帰納的になんか習いはしなかった。その代わり,検算は十分にやらされたものである。数学教育に関する限りは,このころまで戻るべきだと思う

戦前の教育がどのようなものか全く分かりませんし,帰納法と演繹法のどちらが優れているかなどはなかなか優劣のつけにくいものだと思います。
ですが,この文にある「検算を十分にする」に関してはすごく共感しました。
 

中学受験でも見直し計算はすごく大事!

受験算数においても,演習と検算を同じほど比重を置くべきかと思います(極端に言うと)。
 
検算はミスの有無を確かめる手段ですが,それ以上に,自分の解いた軌跡を再びなぞり,吟味することによって思考をより深い場所に持っていくものだと思います。
 
見直しをすればするほど考えがより洗練されていきます。
 
「テストでは見直しは大事!」だとよく言われますが,これはごもっともです。しかし,学力を伸ばすという観点から,テストの時以上に日頃からの見直しにもっと注力すべきではないでしょうか?
もちろん時間的な制約はありますが,毎日の学習に見直しの習慣を少し意識しましょう。